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対談

会長対談

最先端技術で高速道路の新たな未来を切り拓く

最先端技術で高速道路の新たな未来を切り拓く

日本初の高速道路である名神高速道路(栗東IC~尼崎IC間)が1963年に開通して以降、国内の高速道路ネットワークが築かれ、NEXCO 3社の高速自動車国道の供用延長は8521㎞(2023年3月31日)となっています。会長対談第5回は中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)の小室俊二代表取締役社長をお迎えし、高速道路の安全対策や維持管理、また将来に向けた高速道路のイノベーションについてお伺いします。

潜在的リスクを考えて安全対策をとる

羽藤 計画・交通研究会は、初代会長の八十島義之助先生が国土づくりにおける計画・政策的な部分を重視する一方で、現場のエンジニアたちが考え、議論し合える場をつくろうと発足したところが、通常の学会や行政主導の会とは少し違うところです。
 今日は、NEXCO中日本を率いる社長として、またエンジニアとして現場での様々な状況を乗り越えられてきた視点も交えながら、お聞かせいただければと思います。

小室 私の原点をお話しますと、少年時代はプラモデルや鉄道模型、レーシングカーなどが大好きで、機械いじりに興味を持っていました。高校生の頃に東京・練馬の大泉学園に転居したのですが、自室の窓から、完成して間もない関越自動車道(1971年練馬IC-川越IC開通)の高架橋がよく見えて、将来は橋など大規模なものづくりに携わる仕事をしたいと考えるようになりました。それで大学では土木工学という学問を選択し、当社の前身である日本道路公団(道路公団)に1978年に就職しました。
 当時、高速道路は名神高速道路(名神)や東名高速道路(東名)は既に開通していましたが、中央自動車道(中央道)や関越自動車道は整備中で、本州四国連絡橋のプロジェクトなどに目が向く時代だったと思います。入社以降は、高速道路もしくはその周辺の仕事に携わってきました。

羽藤 現在は様々な業務、技術開発、土木工学の最前線でNEXCO中日本を率いておられ、最も重要だとお考えになるのはどのようなことでしょうか。

小室 まず第一に安全です。2012年12月2日に、当社が管理する中央自動車道笹子トンネル(上り線)における天井板崩落事故により、9名もの尊い命が失われ、多くの方々が被害に遭われました。私たちは、「二度とこのような事故を起こしてはならない」という深い反省と強い決意のもと、会社の経営方針の最上位に「安全性向上に向けた不断の取組みの深化」を掲げています。この事故を経験して、インフラを管理運営する中で想定外の潜在的リスクがあることを念頭に置いて、二重に安全対策をする発想を持つようになりました。
 また維持管理の上では大地震の経験も大きな転換点になりました。特に新潟県中越地震以降は、緊急車両は発災後24時間以内に通行させ、迅速な復旧を実現するという意識を持って、耐震補強や資材の準備を行っています。阪神・淡路大震災や熊本地震の教訓から、当社管内では耐震補強あるいは支承逸脱対策を進めており、現段階では約9割が終了しています。

羽藤 笹子トンネルの事故以降、社会的にも安全に対する意識が高まりましたし、御社の維持管理の体制をつくり上げていくことはご苦労があったと思います。そうした中で維持管理の重要性も一層、増していますが、どのような取り組みをされていますか。

小室 私が道路公団に入社した時代には建設が主体でしたが、現在は開通から50年以上経過した道路が約3割、30年以上経過した道路が約6割に及び、老朽化や大型車の交通量の増加などから大規模な更新が必要になりました。
 NEXCO 3社では2012年に「高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会(長期保全等検討委員会)」を設置し、2014年に道路法などの一部が改正、2015年3月に高速道路の大規模更新・修繕事業が事業化されました。その後、追加の更新計画が必要となり、2023年6月に「道路整備特別措置法」の改正によって、これまでは2065年までとされていた高速道路の料金徴収期限を最長で50年延長して2115年まで可能となり、更新事業や機能高度化における安定的な財源が確保されました。
 更新には進化が重要だと考えていまして、たとえば橋の床板部分の取り替え工事も、プレキャストPC床版を使用すると、工場で製作するため品質が安定し、現場での施工時間が短縮されます。工事による利用者への影響を最小限化するため、渋滞が激しい都市部では車線の幅を狭くして、路肩もなくし、車線数を確保するなどの工夫をして進めてきました。また、建設の段階で短工程や低コストであっても、維持管理に苦労するケースがよくありますので、維持管理を視野に入れた発想を必ず取り入れるようになりました。
 さらに、全国の構造物のデータベースを構築して、AIやデータエンジニアリングを活用した維持管理の効率化・高度化に向けて尽力しています。

小室俊二 中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本) 代表取締役社長
小室俊二 中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本) 代表取締役社長

物流の効率化とサービス向上をはかる

羽藤 ここ数年、道路交通の分野では技術的な新しいチャレンジが始まっています。御社は高速道路の建設・維持管理のほか、プラットフォーマーとしての交通事業者の発想で取り組んでいる事業もあり、二つの顔で事業を進めていらっしゃるようですね。

小室 高速道路は物流の大動脈となっていますが、今、直面する大きな課題が2024年問題で、労働基準法改正によってトラックドライバーの時間外労働の上限が規定され、ドライバーの労働環境向上の観点からも、当社は物流を効率化する必要があります。
 まず、ダブル連結のトラックなども含めた大型車の駐車マス拡充をはかります。SAやPAでは多くのドライバーが休憩できる環境整備や利便性向上を目指していますが、長時間、駐車マスを占有する車両もありますので、東名ではSAの大型車駐車マスの一部で「短時間限定駐車マス」の実証実験を行っています。
 さらに、東京と大阪の中間である静岡県浜松市に物流の中継施設を設置しました。東京、大阪から来たトラックのドライバーがこの施設で交代し、東京から来たドライバーは東京へ向かう車両に乗り換え、大阪のドライバーは大阪へ行く車両に乗り換えることで、それぞれが日帰りで戻ることができます。これらは一例ですが、私たちも道路管理者というだけではなく、物流に貢献する道路交通分野の事業者であるととらえて取り組んでいます。

羽藤英二 (一社)計画・交通研究会会長 東京大学教授
羽藤英二 (一社)計画・交通研究会会長 東京大学教授

路車間の協調・競争で技術を進化させる

羽藤 新たな国土軸がつくられていく中で、高速道路もより一層、重要な役割を果たしますが、御社では将来に向けてどのような計画を立てられているのですか。

小室 次世代技術を活用した革新的な高速道路保全マネジメント、「i-MOVEMENT」と呼んでいますが、人口減少や少子高齢化に伴う労働力不足、カーボンニュートラル、お客さまニーズの多様化、老朽化による事業量の増大など、高速道路を取り巻く社会環境が変化している中で、最先端の技術を使って新しい高速道路空間をつくっていくために総合的に取り組んでいます。
 たとえば、光ファイバセンシング技術やAI技術を活用して、走行車両の振動から位置・速度・進行方向といった交通流を可視化し、高精度な監視や渋滞予測を行うなど、管制センターを中心に高度な道路管理が可能になるでしょう。
 計交研会報2015年5月号の「オピニオン」で書かせていただきましたが、車と道の歴史をみると、鉄道はこれまで車両と軌道は同一の事業者である場合が多く、新幹線の高速化もそうですが、両方のバランスをとって高度化して進化してきました。けれども、自動車と道路はそれぞれ別の事業者が携わっています。歴史を見ると、車は車輪が木から鉄になり、そこにゴムがつき空気が入りと進化する一方で、道路は舗装が砂利から石畳になり、アスファルトになりました。車と道路が個別に進化しているがゆえに、時としてアンバランスになってしまうと感じています。たとえば名神の全線開通時に、当時の先輩たちはドイツの最新技術を導入して、クロソイド曲線で高速走行を可能にしましたが、残念ながら当時の国産車は高速走行に対応しておらず、道路公団の交通管理隊の手記には故障車の対応作業が数多く記載されています。その後は自動車が飛躍的に進化して、自動運転の時代になろうとしています。しかし、車側の進化だけでは限界があり、当社のようなインフラ側の支援も必要ですので、路車間で協調しながら取り組んでいこうとしています。
 これからは、車と道がそれぞれ新しい技術を取り入れながら、進化の「競争」と「協調」を行い、そのシナジー効果でより高度な道路交通がつくられていく。むしろそれなくしては、自動運転は実現しないと考えています。

羽藤 確かに道路と自動車は別の事業者が主体となり、それぞれ独自の意思を持ち、技術開発をしています。どういうかたちで相互作用・相乗作用を生み出していけるのか、経済学でいうtwo-sided market(二面市場)のプラットフォームで、御社が描く未来像は「協調・競争型」の新しいインタラクティブな道路交通システムを模索し、描こうとしているのですね。その実現には、社会から理解を得たり、システム開発のための技術者コミュニティをつくったりなどという努力も必要かと思いますが、いかがですか。

小室 自動運転における路車間協調の一例ですが、前を走行する車が物を落としたとか事故が起きた時に、後続する自動運転車が判断して的確に避けることができるか。そのような時に、当社のような道路を管理するインフラ側が管制センターで情報を把握して自動運転車に伝えることができれば、安全性がより高まります。あるいは非常停止してしまった自動運転車を遠隔で安全にコントロールするにはインフラ側の支援が必要です。今後、新東名高速道路(新東名)の建設中区間では、自動車メーカーや通信会社など様々な企業の方々と連携しながら、多様なケースを想定した路車間協調の実験を行います。
 また、2024年度には、新東名の駿河湾沼津SA~浜松SA間で夜間に物流効率化に向けた自動運転トラックの実証実験を予定しています。トラックにSAの駐車マスに来ていただいて、そこで自動運転に切り換え、合流時には通信で支援し、異常時には路肩で対応できるよう3車線の左端の車線を走行してもらいます。通信には路肩のETC 2.0 のアンテナなどを活用することも想定しています。さらに進んで実装段階で多くの自動運転車が走行するようになれば、集合地点を物流企業やデベロッパーと相談したり、専用車線の必要性を警察と協議したり、通信会社の方々とアンテナについて話し合いをしたりと、連携が広がっていくでしょうが、まずはできるところから一歩ずつ進めています。

羽藤 現在の高速道路は実は利用者が車間を取り過ぎるためか有効に使えていない状況で、自動走行によってどれぐらいのサービス水準が実現するかはまだ誰も分からない。それでも今は高速道路を運用しながら、新しい技術をどのように入れていくのか、試行している。未供用区間で実証実験を行いながら新しいチームをつくっていこうとされているのは非常に興味深いです。単純に自動運転技術が入ればいいということではなくて、路車間の協調も、通信のプロトコルも5Gや6G、760MHz帯など車車間・路車間通信用専用周波数も議論される中で、次世代道路のアーキテクチャーを小室社長ご自身が皆を牽引しながらつくろうとされているのですね。
 カーボンニュートラルの取り組みに関しては海外と比べると日本では全体にスピードが遅いのですが、どういう対応を考えておられますか。

小室 当社の企業理念に「高速道路空間を24時間365日お届けするとともに」「世界の持続可能な発展に貢献し続けます」と掲げ、積極的に取り組んでいます。まず、高速道路ネットワークの整備によって一般道からの交通転換をはかり、また渋滞対策によりCO2排出量削減に貢献します。個別メニューとしては、トンネル内の照明設備をLEDに交換、都市部では掘割部上部のルーバー上に太陽光パネルを設置して照明に利用したり、グリーンインフラとして盛土の法面を樹林化したりしています。
 また電気自動車の普及に対応して道路上を通る車の対応としては、EV設備の拡充(全SAに設置済)、全国の高速道路初の水素ステーションを足柄SAに設置しましたが、今後も整備を進めています。
 当社社員のオフィス活動に関しては、温室効果ガスを2030年度までに50%以上削減することを目標とした計画を、2023年3月に策定しました。

羽藤 新東名を見ても明らかなように、道路の線形を変えていった方が、燃費がよくて、自動運転やカーボンニュートラル対応型の高速道路をゼロから建設したくなる場所もあるかと思うのですが、どういう道路をつくっていくか、あるいは既存の道路とうまく組み合わせていくか、どのような思想や戦略をお持ちでしょうか。

小室 2115年までの料金徴収には、「更新」「進化」という言葉が入っています。具体的な「進化」について、線形をすぐ直すのは大変ですが、自動運転を想定して、現在は暫定で2車線の道路の4車線化をまずやっていきたいと思っています。それから、線形をさわらないまでも、路車間協調の事業に投資していきます。

羽藤会長と小室氏

エンジニアは未来に向けた新たな発想を実現する

羽藤 小室社長のエンジニアとしてのご経験から、若いエンジニアに向けて、今後、こういう技術分野が面白そうだとか、期待したいことなど、ぜひアドバイスをいただけますか。

小室 人口減少やリモートの定着など大きな社会変化の中で高速道路は将来どのように利用されるのだろうかと私自身も長らく考えてきましたが、コロナ禍での交通量をみると、乗用車は6~7割に激減し、特に長距離が減る一方で、大型車やトラックは約9割を維持しており、人が動かない時にも物は動くことを改めて強く認識しました。どんな時代にも物が動く空間がどこかに必要ですし、車も道もどんどん進化する中で、高速道路の新たな使い方が生まれる可能性があると考えています。自動運転の世界になると、SA・PAの使われ方も変わり、高速道路の中だけではなくて、特に地方部では周辺地域の中で何らかの役割を果たすことになるでしょう。
 いま経済産業省が主催する「デジタルライフライン全国総合整備実現会議」では自動運転のほかにドローンを送電線の上に走らせることが議論されていて、高速道路でも物が動くのは路面上だけではなく空間全体という概念が出てきます。現在の延長線上に自動運転の世界があり、自動運転で物流が効率化された延長線上にはさらに違った世界があるかもしれません。道路交通の環境変化を感じて先読みしながら、さらにその先を考えていきます。
 どの世界でも、現在の延長線上にある近い将来と、夢を描くことでもよいのですが、未来に向けた新たな発想をすることが非常に大切で、それを実現していくのがエンジニアの役割だと思います。若いエンジニアの方々には、自由な発想で将来の姿を思い描き、それに向かっていろいろな研究をして、現実のものに近づけていくことを期待したいですね。

羽藤 有料道路という仕組みを維持しながら、先進的な技術でより高次元の道路交通を実現していく中で様々なチャレンジができる。そしてそれが地域社会や国土を支えているという実感が持てる。そういうところに高速道路のエンジニアとしての面白さや醍醐味がある。若いエンジニアがその環境を活かしながら、新しい人の動き方とか物の動き方をダイナミックに変えていきそうですね。
 今のZ世代が「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉を使うように、時間に対する感度が上がる中で自動運転が入ってくると、移動時間の使い方がおそらく変わります。リニアの山梨県駅は中央道と隣接しますので、高速鉄道と結節するような新しい道路の使われ方も可能性があります。ここを中心とした60分ほどの圏域には約600万人がいて、高速道路を使いながら端まで人が行き交うライフスタイルは時間の使い方もダイナミックに変化し、仕事や文化的な活動など様々に過ごしながら、美しい風景の中を移動していくようになるでしょう。そして、南海トラフなどで新東名・東名の周辺地域が被災した場合にも力を発揮する。新たな日本の中心としての中央道が生まれます。物流の大動脈は東名ですが、人流の自動運転対応では、実は中央道がとてもポテンシャルが高く、大きな可能性があると思います。そうした新たな国土像にチャレンジできるのは、道路エンジニアとしてはやりがいがありますね。

小室 トンネル技術上結果的に、迂回したものとなりましたが、高速道路が「弾丸道路」と呼ばれていた時代に東京-大阪間の構想はリニアとほぼ同様のルートだったんです。仰るように中央道ではリニアの駅と近接していますので、当社も接続を意識して甲府や飯田市座光寺にスマートICを整備しています。

羽藤 お話を伺っていますと、カーボンニュートラル、自動運転、ドローンなど、これまでの土木の概念とはかなり異なりますが、これからは土木エンジニアのあり方も変わっていくとお考えですか。

小室 私は道路公団に入った時から現在まで、「高速道路は自分たちがつくって、自分たちが守っている」という気概を持ち続けていますし、現場の方々には、「皆さんが社会基盤を支えているという誇りを持って仕事をしてください」と話しています。当社も働き方改革で業務の効率化を進めていますが、それとともに個々の人が働きがいを実感できる職場環境づくりを実践しています。大きなプロジェクトだけではなく、除雪作業の場でお客様に感謝されたり、上司に褒められたりすることにもやりがいや達成感を感じることはあるでしょう。

羽藤 信頼の中で何か一緒にやることが大きな充足感を出すと僕自身が最近特に強く思っているのですが、土木の仕事はものすごく大きな仕事なので、チーム内で信頼をつくる、そういう職場をつくる、国民の皆さんから信頼されていることが大事だし、それが大きな仕事のやりがいになるのではないでしょうか。原発事故以来、社会の中で疑心暗鬼の部分が強まってしまいましたが、その中で、技術への信頼をどうつくっていくのかが大きなやりがいにつながると思います。

小室 ええ、当社は「あの会社が維持管理をしているのであれば大丈夫」と国民の皆さんに信頼していただける会社になることが目標ですね。

羽藤 信頼を大事にしながら未来を見据えて事業を進める企業風土がさらに高速道路を発展させていくと思います。ありがとうございました。

(対談実施:2023年11月15日 撮影:大村拓也)