2025年度 秋の見学会 交通の未来と世界農業遺産のトレイル視察 ~自動走行とリニアから国土の未来を考える~ 報告
2025年10月30日から31日にかけて、プレ企画に続き、「交通の未来と世界農業遺産のトレイル視察~自動走行とリニアから国土の未来を考える~」をテーマに、2025 年度秋の見学会が開催されました。
1日目|交通の過去と未来、そこから広がる新たな価値を訪ねて
最初に訪れたのは、プレ企画同様「山梨県立リニア見学センター」です。館内には、かつて実験線で走行していた実物の試験車両が展示されており、中間車の重量が約25トンと新幹線の約45トンと比べ軽量である点、そして遠隔による自動制御である点が印象的でした。また、実験線にて時速500kmで実際に走行する姿も見ることができ、そのスピードに圧倒されました。この”速さ”により、首都圏・中京圏・近畿圏を結び、今後の日本の都市構造を変える可能性を肌で感じた幕開けとなりました。次に訪れたのが、山梨県甲州市の「勝沼トンネルワインカーヴ」と「大日影トンネル遊歩道」です。勝沼トンネルワインカーヴは、明治36年に建設された旧深沢トンネルを転用したもので、全長約 1,100m のワイン貯蔵施設です。建築分野では用途転用は一般的ですが、トンネルという土木構造物をこうして文化・産業と結びつけて転用している点に可能性を感じました。かつて山梨から東京へワインを運んでいた場所が、今では東京から人が訪れる観光拠点に変化していることも印象的でした。隣接する大日影トンネル遊歩道は、同年竣工の旧鉄道トンネルを再生したもので、平成9年まで旅客・貨物輸送に利用されていました。全長 1,368mの通路を歩くと、レンガ壁や線路跡、水路跡がそのまま残り、鉄道遺構の趣を感じられました。いずれも、インフラを単に維持するのではなく、用途転換を通じて新たな価値を生み出しており、次世代のインフラ活用の方向性を示す好例だと感じました。
午後には、リニア中央新幹線の山梨県駅(仮称)駅建設予定地を訪れ、駅周辺まちづくりの説明を受けました。注目すべきは交通結節の視点で、駅位置が圏央道や新山梨環状道路に近接しており、スマートインターチェンジによってリニア駅と高速道路を直結する構想が示されました。リニアにより品川~山梨間を約25分で結び、首都圏からの賑わいを引き寄せるとともに、更に県内各方面へ拡大していくことが期待されます。また、約24.5ha にわたる駅周辺開発では、北側にパークアンドライド駐車場を備える交通広場を、南側に甲府市主体のまちづくりを計画しているとのことでした。この大きな構想をどう具体化していくのか。都市計画や景観計画など、ルールで関係者間の足並みを揃えつつ、一方で柔軟に対応しながら進めていくことが重要であると感じました。
2日目|物流・建設現場・未来インフラの実践
2日目はまず、「Road to the L4」プロジェクト(テーマ 3)における新東名高速道路での自動運転トラックの取り組みについて説明を受けました。ドライバーの高齢化などからくる輸送能力の低下といった社会課題の解決に向け、道路環境・交通環境の側面から自動化に取り組みやすい高速道路において、自動運転トラックの実用化に向けた取り組みを進めているとのことでした。各大型車メーカーの実車見学の機会もあり、物流分野における自動運転の社会実装が進んでいることを実感しました。
続いて、富士スピードウェイを中心とした複合施設「富士モータースポーツフォレスト」を訪問しました。施設内のウェルカムセンターにて、モータースポーツが自動車技術の進化を支えてきたことを学び、現在においても、こうした競技の場が”良い車”のための実験場の役割を果たしていることを理解しました。
最後に訪れたのが、NEXCO 中日本が整備を進める新東名高速道路の未開通区間、新秦野~新御殿場区間の一部、川西工事の現場です。開通により東名高速道路とのダブルネットワークが形成され、渋滞緩和や物流の安定化、さらにはリダンダンシーの向上などが期待されています。特に印象的だったのが、ICT技術を最大限に活用した最先端の土木施工です。測量から設計、施工、管理に至る全プロセスにおいて、情報化を前提とした「i-construction」が全面的に導入されていました。例えば、3D レーザースキャナ・ドローンなどによる測量で3次元データを作成し、完成形の可視化を実施。各重機にはGNSS 機器を搭載し、3次元データに基づく精緻な施工が行われているといった形です。現在も多くの現場では人力で測量を行い、2 次元設計図と丁張によって可視化が行われていると思います。ICT 技術の活用により、こうした工程が不要となり、生産性・効率性の向上のみならず、正確性や安全性の向上にも寄与するとのことでした。実際に現場で作業されている方々からも「もう ICT 技術のない現場には戻れない」という声も聞かれるほど、その効果を実感されているようでした。さらに、続けて見学した河内川橋(仮称)は、日本最大級のバランスドアーチ橋であり、その迫力に圧倒されました。本橋は、軽量化と施工の合理化を目的に、コンクリート構造と鋼構造を組み合わせた日本で唯一の橋梁でもあります。また、急峻で狭隘な地形に対応するため、資材・車両の運搬用のインクライン(斜面昇降機)も設置されていました。私たちも大型バス 2 台ごと搭乗させていただきましたが、その運搬可能重量は約90トンと、そのスケールに一同驚かされました。
おわりに
今回の山梨・静岡東部の視察を通じて、私が改めて感じたのは交通の変遷です。かつては旧中央本線によってモノを運ぶ地域であった山梨も、地域資源の価値化や高速道路・鉄道網の発展により、人が行き交う場所へと変化してきました。今後は、リニアや自動運転の実用化によって、モノや人の動き方、そしてまちの在り方そのものがさらに変わっていくのだと思いました。私もインフラに携わる一員として、こうした国土の未来に関わっていける喜びを改めて感じました。最後になりましたが、今回の視察でお世話になりました皆様に、心より御礼申し上げます。
東武鉄道(株) 髙山滉平(広報委員)

