活動レポート

イブニングセミナー

2025年度 第1回イブニングセミナー東京における都市開発と防災の歴史的変遷(近現代編)─都市のアプロプリエーションの行方 報告

 2025年4月22日、霞が関プラザホールにて、東京大学名誉教授の伊藤毅氏による基調講演が行われました。本講演は、昨年11月に実施されたイブニングセミナーに続く内容であり、表題のテーマに沿って、東京の都市発展に関する深い洞察が提供されました。
 冒頭では、前回講演の振り返りとして、江戸の発展過程の紹介がありました。江戸は埋め立てにより拡張され、インフラ整備を優先して発展していった都市です。特に明暦の大火以降、町人や武士たちの間で土地の移動や交換(代地や相対替)が盛んに行われましたが、これは厳密な都市計画に基づくものではなく、柔軟で適応的な「アプロプリエーション」であったと強調がありました。
 続いて、江戸から東京への近代化についての説明がありました。明治以降になると、災害や戦争を推進力とし、銀座煉瓦街に象徴されるような建築の欧化が進み、鉄道敷設や道路拡張など国家主導で近代的インフラの整備が推進されました。一方で、土地所有権が明確化されたことで、江戸のような柔軟な土地のやりくりは次第に失われ、計画的・制度的な都市形成が主流となりました。結果として、交通計画のみが発展的に継承され、今日の東京の都市構造が形作られたという見解が示されました。
 後半では東京大学教授の布施孝志氏、東京大学助教の中尾俊介氏を交えたディスカッションが行われ、これからは災害や戦争に頼らない復興デザインの考え方を日常に取り入れていく必要性などが議論されました。
 本講演では国分功一郎氏の中動態の概念なども引用され、都市を単なる空間ではなく、人々の営みとともに変化し続ける存在として捉えるといった新たな視点の提供もあり、示唆に富む内容でありました。

東武鉄道(株) 髙山滉平(広報委員)

(左から)布施孝志 東京大学教授、中尾俊介 東京大学助教、伊藤毅 東京大学名誉教授
(左から)布施孝志 東京大学教授、中尾俊介 東京大学助教、伊藤毅 東京大学名誉教授