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対談

会長対談

21世紀の新たなインフラ像をつくるには

21世紀の新たなインフラ像をつくるには

新型コロナの世界的流行やロシアのウクライナ侵攻などによって世界情勢が激変する中で、日本はどのように転換し、強靭な国土をつくりあげていくのか──会長対談第2回は森昌文内閣総理大臣補佐官とともに、新たな日本のインフラ像に向けた枠組みや考え方について語ります。

「新しい資本主義」で地域の交通を考える

羽藤 例えば、イギリスは分散型国土でコロナ後の国土計画を打ち出すなど、戦略的にコロナ後の国土計画を打ち出しています。日本はどのような方向性をもって強靱な国土をつくっていくのか、どのような議論をされていますか。

 最近の話題としては、「新しい資本主義」のもとにPFIやPPPの新しい分野を広げる議論をしています。PFIやPPPについて、建物だけではなくて、スタジアム・アリーナや文化施設、交通ターミナルなどにもコンセッションを導入したり、道路等のインフラ維持管理にも拡大していくことを標榜しています。
 アリーナ整備について言えば、今、バスケットボールが盛んで、この2~3年で各地にホームアリーナを設置する動きがあります。そうしたスタジアム・アリーナではeスポーツやXスポーツなどもできるようにしたい。

羽藤 eスポーツはすごく流行っています。僕は今、浪江でまちつくりをしていますけど、地元の人たちが「先生、一緒にeスポーツやりましょう」と誘ってくれて、20人ぐらいでサッカーをやったりして盛り上がるんですよ。

 そういうことができる場所を提供して、「デジタル田園都市」を盛り上げる地域の中核にすることも考えだしたところです。できれば建設業など物をつくる人が将来を見込んで運営を担当するようなかたちであってほしい。

羽藤 それはすごく面白いですね。

 空港のコンセッションは広がってきたので、今後は上下水や道路、さらには国の管轄外の県とか市町村が持つインフラ施設をきちんと管理してマネジメントする。各県や市町村では技術者が減っているので、マネジメントもしてもらう運営に徐々に転換する必要があり、それを日本の建設業や研究者の方々に託したい。それが地域の活性化につながっていけば、建設業の活躍の場がさらに様々な分野に広がるのではないかと思います。

羽藤 次の時代、21世紀型のインフラ産業の担い手のあり方として、別次元のコンソーシアムや、施設の短期的なマネジメントではなく地域のトータルマネジメントの拠点としての文化的・戦略的な構想、そこには自動走行などの問題もある。そのマネジメントでは交通事業者や建設業など、ハードのことが分かっている方々が重要な役割を担うことが期待されているということですね。

 それから、地方の交通をどうするか。地域のバス事業や鉄道事業はコロナ禍による乗客の減少で一気に火を噴いた状態ですが、明確な方針はまだ打ち出せていない。私の持論ですが、「パブリックトランスポーテーション」と言う以上はこれからの時代は公共として何らかの配慮や応援が必要だと思います。地域の公共交通にはどういう資金の手当てが必要か、国や地域の公共団体も応援する体系に持っていくか、個々のプロジェクトに対するオペレーションやマネジメントを誰がどのように分担していくのかという構想にまとめていきたいと考えています。
 「新しい資本主義」の中では、「官」か「民」のどちらかということではなく、「官」と「民」が連携するPFI、PPPもその一翼を担います。そういう意味では新しい資本主義のかたちが最も明確になるのは地方交通の分野ですので、既存のものや自動運転などの新しい技術も組み込んで公共交通をどのようにして支えていくのかという議論にこれから本格的に入っていければと思います。

羽藤 国鉄や道路公団などを民営化した時には地域で分割するとか株式会社を創設するなど資本主義的な考え方でした。けれども現在の地方の公共交通に関しては資本主義的なやり方だけでは難しく、また維持管理では固定資産税の問題や長期的な災害リスクもあり、どのように持続可能な交通をマネージするのか、そのかたちがまだ表れていないと思うんですね。
 それがPFIなどの新しいやり方の中で出てくるといいんですが、具体策としては、地方鉄道のBRT化を道路としてやるか鉄道としてやるか。あるいは都市部の非常に利益が上がる拠点あるいはアリーナなどのマネジメントを誰がやり、その利益をどういうふうに誰がもらってどのように地域に還元していくのかというところが、本当の制度改革になってくるでしょう。

森 昌文 内閣総理大臣補佐官
(国土強靱化及び復興等の社会資本整備並びに科学技術イノベーション政策
その他特命事項担当)
森 昌文 内閣総理大臣補佐官
(国土強靱化及び復興等の社会資本整備並びに科学技術イノベーション政策
その他特命事項担当)
森氏のキーワード_1

他国との協調関係の中で重要な位置づけとなるインフラ輸出

 「新しい資本主義」の下では、国内にとどまらず、日本企業の海外進出も後押ししたい。コロナ禍で海外との往き来がかなり減っていましたが、海外のインフラ輸出に関するプロジェクトを再興していこうとしています。世界が揺れ動いている中で、日本ももう一回掘り起こしをしてリバイバルすることを今やり始めています。

羽藤 日本の国際支援は戦災の補償から始まり、それが開発援助から開発協力へとパートナーシップに変化しました。今はアメリカとインドとオーストラリアと日本のシーレーンも含めて他国との協調関係をどう構築するかという中で、インフラ輸出は重要な位置付けがされています。

 アメリカ、オーストラリア、インド、日本の4カ国でQUADという枠組みの下、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協議を進めています。その中で日本は自国の役割やインフラの強みを示すことができるか、さらなる可能性を探ろうとしています。
 世界的には、単純にODAで援助する時代は終わっていて、オペレーションまで含めて丸ごと企業群が応援するプロジェクトあるいはプロジェクト・ファイナンスに変わってきています。欧米は世界の市場でマネジメント力を発揮しています。けれども日本企業はまだODAで資金援助してインフラ整備をすることに重心があるので、O&M(運営・維持管理)をはじめとする海外のようなプロジェクト・マネジメントができる企業体に体質を変えていかないといけないと思います。

羽藤会長のキーワード_1

スタートアップ支援で新しい産業づくりをはかる

 新しい資本主義の一環として、スタートアップ・エコシステムといって、スタートアップをどんどん広げて、それを支える仕組みをつくり上げていこうとしています。

羽藤 大学もスタートアップとか事業化支援のファイナンスが国からも出ていて、これまでは研究して論文を書いて終わりだったのが、社会実装までやる機運が大学の中でも高まってきています。また、自身の研究力や新しい業態、新しいネットワーキングの中で働きたいという学生が増えています。

 日本でも大学を卒業して大企業に勤めず、30代ぐらいまでスタートアップにいろいろトライアルする優秀な方々が増えていますが、世界的な趨勢の中ではまだかなり低調なレベルで、これからの日本の新しい産業づくりになるように盛り立てていきたいですね。

羽藤 僕がまちづくりに関わっている浪江町には「地域デザインセンター」ができて、新しい人がたくさん入り込んできて、いろんなことを始めています。「地方はとても自由度が高い」と若い人や中堅の人たちは言ってくれるんですよ。
 そう考えると、これからの国土の構造とか地域のあり方は、これまでのように東京に全部集中するよりも、イギリスが首都機能の一部をグラスゴーに移して、その間の鉄道とか道路のネットワークを整備して、各地で様々なプログラムが動き出したような体制のほうが人々は生きやすいのかなと思うんです。

 地方の新しい環境で新しい産業を興す方がしがらみも少なく、スタートアップは中規模あるいは人口10万人ぐらいのまちの中で始まっていくのが一番取り組みやすい。いきなり東京圏の3000万の人を相手にデジタル化はできないけど、10万人の都市であれば実現できそうですよね。
 その意味では全国各地で、データ化やオンライン化がセットされた「デジタル田園都市」「スマートシティ」に取り組まれているのは非常にいいことだと思います。まずは地域で共通化されたプラットフォームをつくり上げて社会実装を行ない、最終的には全国につながっていく。地域に実装できる仕組みを考え、どのように応援するかはまさに霞が関やアカデミアの方々に求められていると思いますね。

羽藤 学生もコロナ禍を契機にデジタル都市スタジオみたいなことに変化していて、データプラットフォームがあってシミュレーションやAIを使うと多くのことがリモートでできる空気感はあります。彼らが社会に出た時に、エコシステムがあってデータプラットフォームがあればいろんな活動を地域で起こしていける可能性は大きいのですが、現在の鉄道事業者や建設業など大企業がつくるものの間にはギャップがあって、それをどう繋ぎながら新しいやり方をつくれるかがポイントになります。

 最初に社会実装していく時の応援団として、建設業や地域の方々がエンジェル投資家のような存在になることはできると思うんですね。その後はベンチャーキャピタルのような機関投資家を含めた投資家がサポートしていく。そして随所で政府調達を行ってサポートしてあげることで中規模クラスに発展していけると思うんです。

羽藤 それは重要ですね。各地に大学の研究者や学生がいて、10万人都市だけで89あって1700万人が住んでいるので、それを横展開するだけですごい数のモデルができます。

 日本の元気さを取り戻すには、いかにスタートアップが広がってコアな産業になっていくかということだと思うんですよ。そのためには政府調達の話もあれば、初期の研究開発投資、上場時のサポート、税制、ベンチャーキャピタルの支援体制など、全部含めてシステムをつくり上げていくのが命題です。

羽藤英二 (一社)計画・交通研究会会長 東京大学教授
羽藤英二 (一社)計画・交通研究会会長 東京大学教授
羽藤会長のキーワード_2

大きな仕組みや新しい動きをつくっていく時ではないか

 「ウクライナのことがあるのでこの先どうなるか分からない」という人がいますけれど、資源がなくて、CO2の排出量がどんどん増えていく中で、日本が活動できる分野を探していく活動は止めてはならない。地球温暖化、人口減少、あるいは日本の活力低下に対して、研究や事業に邁進していただくことは絶対必要だと思うんですよね。

羽藤 日本のエネルギー政策はモビリティーの問題とも大きく絡んでいますが、ガソリン税という特定財源を手放して、新たに炭素税が出てきている中で、エネルギー対策特別会計、経産省・環境省・国交省がどういう新しい税の仕組みをつくっていくのかという話があります。さらに、混雑料金などを含めた料金、MaaS的な世界も含めてどのようにトータルで制度設計していくのか。これまでの概念とは全く異なる大きな仕組みや新しい動きをつくっていく時ではないかと思います。

とても難しい話ですね。もともと行われている行政サービスと、それに対する対価の負担の関係などを再構築するのは当然大事だと思います。それに加えて新エネルギーに対する更なるトライアルは必要ですね。それは移動手段を支える燃料系と全く無縁ではないはずなんです。自動車交通も含めた全体の体系の中に組み込んで、全体のエネルギー効率をどう高めていくのかという議論は極めて重要ですね。

羽藤 山尾庸三がグラスゴーに留学して造船を学び、日本に帰国した後に工学を産業論としてやったので、造船が日本の産業として飛躍して、その技術が鉄道に活かされ、さらに鉄道が道路橋を生み出し、イギリスから借金するとか税制的なサポートを国産化するというような激しい政策論が明治・大正期に行なわれています。
 新しいインフラ像に21世紀がチェンジしていく時に、制度設計や支援のかたちをどうデザインしていくかが最も重要だと僕は考えています。これまでは高速道路建設費の償還というようなことでしたが、交通モードの壁を取り払い、エネルギーも含んだデザインが必要ではないでしょうか。

 これまでは部分最適みたいな議論をしてきましたが、さらに大きい枠組みで議論する時代になりつつあると思いますね。それが産業転換や技術発展の端緒にもつながっていくと思います。

羽藤 例えば運転を自動化するには、それに即した社会空間に変えていく必要がある。高速道路は2車線以上あってはじめて物流の効率化ができるんです。社会の方でも自動化・ロボット化に向けて変えていかないと、いつまで経っても生産性は向上しません。
 究極を言えば、生産性を上げないと幸せにならない。生産性を上げる技術開発を頑張らない限り、危機や根本的な問題は解決しないと思います。
 最後に、計交研にはどんな期待をされますか。

 技術開発やイノベーションという分野を担当して一番思うのは、それをいかに社会の中で実現するかということです。交通事業者や物をつくる現場の方々がニーズを掘り出し、そのための技術をどのように現場で応用してくださるかに尽きますね。
 計交研の方々にはまさにマッチングの中心人物になっていただけると思っているので、技術の進み具合と現場での適応度合いの両方を見ていただいて、ぜひ生産性アップを図ってほしい。ひいてはそれが日本を元気にする、活力を上げることにつながると期待しています。

羽藤 ありがとうございました。

森氏のキーワード_2
羽藤会長と森氏

(対談実施:2022年6月7日 撮影:小野田麻里[広報委員])