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コラム

巡礼と道 ~スペイン巡礼紀行~

巡礼と道 ~スペイン巡礼紀行~

*この記事は、会報2021年5月号コラム「巡礼と道 ~スペイン巡礼紀行~」より続いています。

2. 巡礼のあらまし

 2010年8月14日、フランスとスペインの国境にある、出発地点のサン・ジャン・ピエ・ド・ポーを出発、およそ800㎞の巡礼路を33日掛けて歩いた。巡礼路は、世界遺産に登録されたオーソドックスな「フランス人の道」を選択した。

巡礼14日目 カストロへリスの教会
巡礼14日目 カストロへリスの教会

 出発地のサン・ジャン・ピエ・ド・ポーに着くまでは結構大変だった。8月10日成田発パリ行きの直行便で8月11日にパリ到着。翌日はパリ観光をして、8月13日パリからTGV(フランスの高速鉄道)や電車を乗り継いでサン・ジャン・ピエ・ド・ポーに到着した。
 生活道具一式を詰めた15kgのバックパックを背負って、1日平均で25kmくらい歩いた。最初は一人でも、途中から仲間が増えてくるのがこの巡礼の面白さだ。巡礼宿は概ね10km間隔で配置されている。背負うバックパックの重さにもよるが、成人が1日に歩ける距離が概ね決まっている。ある巡礼宿で一緒になると、その次も同じ巡礼宿で一緒になるので自然と会話を交わすようになり、巡礼仲間ができあがる算段だ。最初はアメリカ人新婚夫妻、中盤はスペイン人、フランス人のラテングループ、最後はドイツ人、デンマーク人のゲルマングループと一緒に歩いた。明るく、少々アバウトなラテン系ともの静かで真面目で何事にもタイトなゲルマン系の民族性の違いも実感できた。
 巡礼者は、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーの巡礼事務所でオスピタレイロ(世話役)から簡単な英語のオリエンテーションを受けて、クレデンシャル(巡礼手帳)を交付される。自分は日本から持参したものを携帯した。クレデンシャルはパスポートと同じくらい大事な、スペイン巡礼では最もマストなアイテム。これがないとアルベルゲ(巡礼宿)に宿泊できない。アルベルゲにチェックインして、クレデンシャルのスタンプ欄に宿のオスピタレイロからスタンプを押してもらう。

グレデンシャル(巡礼手帳)
グレデンシャル(巡礼手帳)

 このクレデンシャルが巡礼路を間違いなく歩いたというエビデンスになる。ゴールのサンティアゴの巡礼事務所で簡単な質問を受け、クレデンシャルを示してコンポステーラ(巡礼証明書)が発行される。

アルベルゲ(巡礼宿)のスタンプ
アルベルゲ(巡礼宿)のスタンプ

 帰国後、日本人の友人から「キリスト教徒でなくてもいいのか」という質問をよく受けたが、キリスト教徒である必要はまったくない。サンティアゴ巡礼路は全ての人に開かれており、宗教は問われない。巡礼目的が信仰のためだけでなく、スピリチュアルや自己啓発、観光やスポーツ、単なる目標達成のため巡礼をする人も多い。意外に学生が多かったのは、長い夏休みを利用して、ちょっとした合宿気分を味わえるからだろうか。
 33日間、新聞もテレビも見ずに重いバックパックを背負ってひたすら歩く。一定の時間を掛けて、歩く、観る、食べる、洗濯する、寝るという単純な行為を繰り返すことが、自分にとっては得難い経験だったと感じている。
 朝6時に起きて、お昼頃に次のアルベルゲに着いて、お昼と洗濯を済ませて、シエステ(昼寝)に入る。18時に街に出て巡礼仲間と飲み会、夜は10時に就寝。
 規則正しい生活をひたすら繰り返すのがスペイン巡礼の最大のメリットではなかったか。歩いている最中に「この先どう生きるか」などと難しいことを考えたことは一度もない。このような生活を日本で体験するのは難しいだろう。今から思うと、スペイン巡礼は、自分にとって「愉快な行」みたいなものだったと考えている。
 9月15日、無事にサンティアゴ・デ・コンポステーラ到着、自分の巡礼が終わった。

巡礼33日目 サンティアゴ・デ・コンポステーラ到着
巡礼33日目 サンティアゴ・デ・コンポステーラ到着

 スペイン巡礼は、1ヶ月に及ぶ「非日常の日常」でもある。日常生活の基本は衣食住。簡単にふれておこう。
 まずは、「衣」。
 巡礼者は重いバックパックを背負ってひたすら歩くので、皆、歩きやすいTシャツや半ズボンなどカジュアルなスタイルでバックパックを背負って歩く。自分は生活道具一式を詰めた50Lのバックパックを背負った。最も注意しなければならないことは、足にマメをつくらないこと。マメが破れて歩けなくなった巡礼者、アルベルゲでひたすらマメの治療をしている巡礼者をたくさん見た。自分は、足への負担を軽くするため2本のスティックを使い、厚底のスニーカ―を履いた。幸いマメは一度もできなった。

巡礼中の服装
巡礼中の服装

 巡礼者は現地で調達したホタテの貝殻を胸から下げて歩く。ホタテ貝は中世からサンティアゴ巡礼のシンボルだ。
 初めての道を間違えずに歩けるのはなぜか。最も気になるところだろう。実は巡礼路のいたるところに黄色い矢印の道案内が置かれている。朝の暗いうちは、この黄色い矢印を見落とさないように慎重に歩いたものだ。シンボリックなデザインのホタテ貝が道案内に使われていることもある。

巡礼のシンボル(ホタテ貝)
巡礼のシンボル(ホタテ貝)
ホタテのマーク(上)と黄色い矢印(下)
ホタテのマーク(上)と黄色い矢印(下)

 次は、「食」。
 食事は自前調達が原則。スーパーや小売店で買った食材を利用した。スペインは日本の物価の8割程度、朝食、昼食はスーパーの食材やサンドイッチ、夕食はレストランを利用した。スーパーで昼食、夕食、明日の朝食の3食分を買う。3食分で8ユーロ(2011年のレート:1ユーロ110円)程度、リーズナブルに済ますことができた。

昼食(スーパーで買った食材)
昼食(スーパーで買った食材)

 最後に、「住」。
 巡礼者にとって毎日の宿泊所となるアルベルゲは最も大事な宿泊施設。クレデンシャルを持つ人は誰でも泊めてくれる。アルベルゲには公営と私営があり、先着順で1泊しか泊まれない。アルベルゲにはオスピタレイロが常駐して、巡礼者のさまざまな世話をやいている。
 アルベルゲは教会や修道院を利用したもの、学校の再利用、ロッジ風の建物など様々、公営のアルベルゲで料金は1泊5ユーロ程度。

アルベルゲ(巡礼宿)
アルベルゲ(巡礼宿)

 アルベルゲは、共同使用のシャワーとトイレ、大部屋の2段ベッド、プライベートはまったくない。そのため10日に1回は市中のホテルを利用した。

アルベルゲ(巡礼宿)の2段ベッド
アルベルゲ(巡礼宿)の2段ベッド

 食事の提供はないが、厨房は自由に使えるので、スーパーで買い込んだ食材を調理する巡礼者も多い。
 どのようにアルベルゲは運営されているのか?巡礼路の整備、標識も含めていろいろな施設は、すべて篤志家の寄付で運営されているらしい。世界遺産の巡礼路はボランティアの精神で支えられており、巡礼者は彼らへの感謝の念も忘れてはならないと感じた。

3. 巡礼者の一日

 5時に起床、着替えなどの身支度と朝食を済ませて、6時頃にアルベルゲを出発。この時期のスペインは、暗いのでヘッドライトを頼りに黄色い矢印を見失わないように慎重に歩いていく。7時過ぎにようやく太陽が昇ってくる。明るくなると多くの巡礼者とともに安心して歩ける。 
 スペインの広大な麦畑、ブドウ畑の中の巡礼路をひたすら歩く。10時頃にカフェで一休み、1ユーロのカフェ・コン・レッチェ(カフェ・ラテ)と1ユーロの菓子パンでエネルギー補給。12時前後に目的のアルベルゲに到着。受付で5ユーロを支払い、オスピタレイロからクレデンシャルにスタンプを押してもらう。荷物を2段ベッドにおいて、すぐに洗濯を始める。洗濯機はないので洗濯板とシンクでごしごし洗濯する。慌ただしく洗濯ものを干し終えて、スーパーか食料品店を探す。パン、ハム、ジュースや果物などの食材を買いこんで、アルベルゲの中庭で昼食。スペイン人は14時から16時のシエステを厳格に守る。開いている店はない。巡礼者もアルベルゲでシエステをとってその日の疲れをとる。
 16時にシエステから目を覚まして、旧市街を散歩して、カテードラル(大聖堂)や教会を見学。19時、夕食はレストランか、巡礼仲間と会食。

巡礼19日目 レオン大聖堂
巡礼19日目 レオン大聖堂

 待ち合わせの合言葉は「カテードラル、19時」。スペインの旧市街の中心部は、どのまちでもカテードラルと広場がセットになっている。この広場のカフェテラスで巡礼仲間と一杯やりながら語り合う。21時、アルベルゲに戻る。門限が厳しく、この時間に戻らなければ締め出される。22時、消灯、就寝。

自分のBLOGに巡礼の旅日記を掲載している。
https://camino0810.exblog.jp/17054713/

巡礼19日目 レオン:巡礼仲間たちと
巡礼19日目 レオン:巡礼仲間たちと

*この記事は、2021年7月更新の「巡礼と道 ~スペイン巡礼紀行~」に続きます。