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インタビュー

ふたば未来学園──福島から内発する教育を通じた復興 2

課題先進地域である復興の地から世界の課題解決を目指す

課題先進地域である復興の地から世界の課題解決を目指す

*この記事は、「ふたば未来学園──福島から内発する教育を通じた復興 1 双葉郡教育復興ビジョンの実現に向け、地域の未来を担う人材を中高一貫教育で育成する」より続いています。

柳沼英樹 ふたば未来学園中学校・高等学校 校長
柳沼英樹 ふたば未来学園中学校・高等学校 校長
南郷市兵 ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長
南郷市兵 ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長

課題解決に取り組む海外の仲間との「果し合い」

──カリキュラムは、中学は統一されていますが、高校では三つの系列に分かれています。どのような内容ですか。

柳沼 双葉郡の休校になっている高校それぞれの特徴や伝統を受け継いで、アカデミック系列、スペシャリスト系列、トップアスリート系列の3つを設定し、総合学科としてまとめています。アカデミック系列は、難関大にも進学できるような系列、スペシャリスト系列は農・商・工・福祉の4つの専門分野を学ぶことができる系列、アスリート系列はバドミントン、レスリング、サッカー、野球の競技に特化してトップアスリートを養成することができる系列です。

南郷 「総合的な学習」の時間では、全学年を通じた探究学習を行ないます。1年生では、双葉郡の8町村で現地調査やヒアリングを行い、地域の課題を見つめます。その後、2・3年生では大きく6つの探究班に分かれた上で、各自のテーマで地域課題解決の実践と研究を進め、発表・発信までつなげる形です。校内だけでなく、地域での報告会も行い成果を地域に共有することもあります。

探究テーマの設定では現地調査を実施
探究テーマの設定では現地調査を実施

──探究学習の一環として、ドイツやアメリカで海外研修も実施されていますね。

柳沼 探究学習で見つけた地域の課題が、実は世界的な先進課題であることも多いのです。視野を地域に限定せず、世界に広げることで共通の課題を見つけることができますし、また、海外に出ることで日本がどのように見られているのかといったことや現地の考え方も知ることができます。2年時のニューヨーク研修では、国連を訪問し、地域の課題解決への取組を通じて得た洞察と持続可能な地域づくりの提言を行っています。残念ながら、福島の話だけしても、国連でさまざまな課題解決に当たっている職員の方は聞いてくれません。ですので、世界の文脈につなげて、難民の問題と避難時のサービスの問題を繋げた提言や、原子力発電所の事故と技術災害を繋げて、今後、科学技術の発展・進歩に伴って起こりうるさまざまな課題への対応の提言等を行うと同時に、先方からも世界の課題解決の現状を教えてもらい、意見交換をするといった感じです。それを持ち帰り、自分たちの研究をさらに深め、追及していくという活動につながっています。

探究学習で3Dの仮想空間を制作するグループ
探究学習で3Dの仮想空間を制作するグループ
風評被害払拭の探究を深めた中島さん
風評被害払拭の探究を深めた中島さん
情報発信による地域活性化の探究発表を行う3年生
情報発信による地域活性化の探究発表を行う3年生

──議論をした中で、向こうの方々の反応はどうでしたか。

柳沼 生徒たちと話が合うのは、同世代よりも、国連職員やコロンビア大学のSIPA(国際公共政策大学院)で研究している各国政府から派遣された学生ですね。世界の課題解決に向かっている方々と地域の課題解決に向かっている我々というのは、目線が同じで非常に話がかみ合うようで、研修に来た高校生の相手をしてくれるというよりも、一緒に世界の課題解決に取り組んでいく友だち・仲間として迎えてもらっています。毎年訪問する国連では、本部の広報部長が対応してくださるのですが、国連の方からは「ふたば未来学園は見学に来るのではなく、課題解決に向けた提案をぶつけてくる。果し合いに来てくれるから特別だね」と言われました。毎年、同じ発表はできませんから、先輩たちの過去の議論を踏まえて新たに重ねていくので年々ハードルが上がっています。学校自体の思考も、この海外研修のプロジェクトがあることで大分深まっていると感じています。

国連で発表する生徒総括リーダー
国連で発表する生徒総括リーダー

双葉郡から世界へ羽ばたく人材育成を目指す

──卒業生たちはどのような進路を選ぶのですか。

柳沼 探究した学びを上級学校で深めたいと大学進学する生徒ももちろんいますし、あるいは、地域の中で皆さんとかかわりを持って、ためになるような仕事をしたいと介護施設などの公共施設や、また東京電力に就職した生徒もおります。
南郷 そうした地域に貢献するほか、本校は世界に羽ばたいていく人材育成もプロジェクトの一つとして担っていますので、世界に羽ばたいていって、世界から今度こちらの地域を援助する、支援するという人材も育っています。

──復興が進みつつある地域の教育機関として、どのような人材育成を目指していますか。

柳沼 開校当初は双葉郡出身の子どもたちが大半でしたが、徐々に双葉郡以外の県内からの生徒も多くなってきました。この地域を知って、地域課題を見つけて、地域のためにという学びを通して、自分たちのふるさと、あるいはこの国にどういう貢献をしたいかということをもっと広くとらえる人材育成につなげていけたらいいと思います。福島県には、まだ課題が非常に多く残されており、イノベーション・コースト構想(注1)や国際教育研究拠点の実現もこれからです。それらに貢献できるような人材育成につなげていくことや、いかに本校の学びの成果を県内全体、他の高等学校に波及し、福島県全体としての人材育成につなげていくかというところは、今後の大きな課題であると考えています。

注1 福島イノベーション・コースト構想:東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指すもの。廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産等の分野におけるプロジェクトの具体化を進めるとともに、産業集積や人材育成、交流人口の拡大等に取り組む。構想の中核施設として国際教育研究拠点を整備予定。

*授業の様子は動画「ふたば未来学園──福島から内発する教育を通じた復興 3」でもご覧ください。