インド鉄道プロジェクト視察会報告

 現在、インドではムンバイ・アーメダバード間でインド初となる高速鉄道の建設が、日本の新幹線方式を導入するかたちで進められています。今回、当会では家田会長を団長とし、総勢19名からなるインド鉄道プロジェクト視察団を立ち上げ、5月22日~26日の5日間で、高速鉄道の建設現場および地下鉄、モノレールなどその他のインドの鉄道事業の現状を幅広く視察しました。なお、今回の視察会は、東日本旅客鉄道(JR 東日本)、日本コンサルタンツ、日本工営各社の多大なご協力により実現したものです。

 視察スケジュールと参加者(会長・幹事長ほかは五十音順)のレポートを掲載します。また、早川和利氏・金子祐太朗氏(両名ともJR 東日本)による視察の概要と、参加者のうち山本卓朗氏((社)未来のまち・交通・鉄道を構想するプラットフォーム)と大串葉子氏(椙山女学園大学)の報告は会報7月号に掲載します。

 

視察日程・内容

5月22日(水)デリー泊
成田発17:30 → デリー着23:45

 

5月23日(木)デリー泊
デリーメトロ乗車視察:イエローラインのNew Delhi 駅からRajiv Chow駅へ、ブルーラインへ乗り換え、 Brakhamba Road駅まで
デリーメトロ公社(DMRC)ヒヤリング
概要説明会: インド高速鉄道(JIC)、貨物鉄道プロジェクト(日本工営)

 

5月24日(金)アーメダバード泊
デリー発8:45 → アーメダバード着10:20
サバルマティ駅と車両基地予定地視察
アーメダバード駅ホーム予定地視察
アーメダバードメトロ施工現場視察

 

5月25日(土)ムンバイ泊
アーメダバード発7:20 → ムンバイ着8:35
ムンバイメトロ乗車視察:1号線Airport Road駅からDN Nagar駅まで
ムンバイモノレール乗車視察:Bhakti Park駅からGTB Nagar駅まで
高速鉄道 BKC駅計画地視察
ムンバイメトロ3号線施工現場視察:バデコ社
世界遺産 旧ビクトリア・ターミナス駅(CST駅)視察

 

5月26日(日)機中泊
Western Railway乗車視察:Church Gate駅から Mahalaxmi 駅まで
Dhobi Ghatドービー・ガート(洗濯場)
Mani Bhavanマニ・バワン(ガーンディ博物館)
Gateway of Indiaインド門
ムンバイ発(NH830)20:00 → 成田着27日7:55
※一部メンバーは世界交通学会等へ参加

 

インドの「二つの時計」

家田 仁 (当会会長・政策研究大学院大学)

「悠久のインド」という捉え方がある。20年くらい前だったろうか初めてインドを訪れた際、道端にゾロゾロとしゃがみ込み、道路工事用の石材をコツコツと手で割る、ぼろ布をまとった作業者たちの光景が衝撃的だった。今回の訪印でも、街中をのんびりと歩む牛たちや、昔から変わらぬ広大なスラムを眺めると、ゆっくりと進むインドの「時計」は今も顕在だ。中村元の名著「インド人の思惟方法」によると、インド人は抽象的思考と宗教的思考への傾注に特徴をもち、「時間」を超越した概念操作を得意とするとされているが、これも頷けるところだ。

その一方で、インドは抜群に速く回る「時計」をも手にしている。ソフトウェア開発などで先端ITビジネスの一翼を担っていることはもとより、大都市のメトロなどの通勤鉄道の駅構内をセカセカと歩く中間層の人たちを見るとこの「速い時計」がマザマザと感じられる。よく考えてみると、インド商人(印僑)は東の華僑、西のアラビア商人とともに世界三大商人の一つとされ、古来、アジア南部やアフリカ東部で活躍してきた。特にビジネス界における「速い時計」も決して昨日今日登場したわけではなく、インド人の思考と行動における深層の一面をなしているようだ。

今回、インフラ整備の現場でも、この「速い時計」を目の当たりにした。デリーメトロはわずか15年間ほどで延長300キロにまでネットワークを拡げ(東京は90年間)、5年前に1号線を開通したムンバイメトロは現在さらに175キロ分の整備を一気に進めている。そこでは、工区の拡張、標準化の徹底、覆工を設けない思い切った大規模開削など、工期短縮やコスト削減に向けた工法や建設マネジメントに凄まじいばかりの「工夫力」が発揮されている。

「ゆったりと進む時計」と「速く進む時計」という「二つの時計」をもつインド、このメリハリの利いた時間感覚は、筆者にとって今回のインド訪問の大きな収穫となった。

鉄道を取り巻く要素技術としての輸出

寺部 慎太郎(当会幹事長・東京理科大学)

今回の視察で最も印象に残ったのは「日本の鉄道は要素技術では世界一の水準にある」という言葉で、「要素技術では」の所に強調が置かれていた。一般的に日本の鉄道は個別の技術では優れているが、実際に国際競争になるとなかなか勝てないという。この話を聞いて、日本の携帯電話がiモードなどで独自に発達し、その様子がガラパゴス化と言われたことを思い出した。

ムンバイ-アーメダバードの高速鉄道は、新幹線方式がパッケージとしてそのまま輸出されるわけだから、素晴らしいことだ。システム全体として最も優れているということを証明している。しかし、パッケージとしての輸出は、諸刃の剣だ。うまくいけば全て取れるが、失敗すればゼロである。これにこだわっていては結局、日本の優れた技術が死蔵されてしまうことの方が多くなってしまうのではないだろうか。

日本の携帯電話で開発された絵文字はemojiになって世界的に使われるようになった。車両や信号システム、保守、地震や天候の急変を感知して運行を止める技術といったハード技術に加え、安全教育の方法や安全思想の徹底、不動産事業や物販事業との協働、都市内交通や自動車交通との連携、駅周辺開発との連携などソフト技術も、日本が誇る要素技術として世界中の鉄道システムにどんどん輸出されることを願う。

都市内交通や駅周辺開発との連携が期待されるアーメダバード駅前

マルチモーダルな乗り継ぎ

石坂 哲宏(日本大学)

本視察の各所において、結節点におけるマルチモーダルが重要なキーワードであると感じた。高速鉄道駅の予定地ではメトロとの乗継の利便性は十分に考慮されていた。サバルマティーではメトロの地上駅と結ぶスカイウォークの設置、アーメダバードでは近接したほぼ直下での地下駅建設で乗継は容易であろう。また、メトロや既存のBRTなどにおいても、ラストワンマイルコネクティビティ―を充実化するため、駅からの端末交通への乗継が計画的に?もしくは自然発生的に?サービスとして提供されていた。アーメダバードでは現時点では乗用車によるタクシーはあまりないのでオートリキシャがその主役であった。そのサービスの提供量は、目を見張るものがあるが、営業上の稼働率はあまり高いようには見えない。今後の経済成長、所得上昇に伴いそれらのサービスも淘汰されず、共に成長できるかどうか?そして増加するであろう自動車利用に対して、暑いインドでの公共交通利用を支える上で必須な存在として、どのように発展していくか、今後も見続けていきたい。

アーメダバードのメトロ建設現場と高速鉄道駅予定地(左側の建物の奥)

アーメダバードメトロ駅下のオートリキシャ 

インドの「熱」

小野寺 博(三井不動産株式会社)

43℃。インド滞在時の最高気温、アーメダバードでの話である。

「暑い」ではなく、日の光が肌を貫き「熱い」、そして「痛い」。

「暑さ」には自信ありのはずだったが、その「熱さ」に自信は脆くも崩れ去る。整備工事現場の行き帰り、頭はクラクラ、足元も不確か、何となく息苦しい。一刻も早く「風邪ひき上等!」の室温20℃の寒冷地(ホテル)に逃げ帰りたくなる。

そんな中でも工事は粛々と進む。聞けば当地は50℃に達することもあり、この程度の「熱さ」は、現地では「別に」ということのようである。

ここで陣頭指揮をとるのは日本のエンジニア。説明の言葉の端々に「熱さ」がほとばしる。使命感の強さ、きりっとしたまなじり、過酷な状況を楽しむようにさえ感じられる笑顔。遥かインドの地で久々に心が震える思いを味わった。

肉体的な「熱さ」を超える精神的な「熱さ」の実感。「心頭滅却すれば火もまた涼し」の境地には遠く及ばない脆弱で気弱な我が身を痛感する視察となった。

P.S.この時点で腸の具合がすぐれず、「水を飲みたいが飲んだら最期、後が怖い」という恐怖にも心が震えていたのは、私だけであっただろう。今思い出しても身震いする良き思い出。

アーメダバード駅の地下工事現場の様子

アーメダバード駅の工事現場付近の様子 

インド経済の大動脈となる高速貨物鉄道WDFC

作中 秀行(日本工営株式会社)

踏切の前をガタゴトと音を立てながら、いつ途切れるのかと思うほど、長い貨物列車がゆっくりと通り過ぎて行く。速度が遅いので、飛び乗ってこのまま何処か旅に行けないだろうかと思っていた。50年以上も昔の子供の頃の思い出である。今や、貨物列車を目にする機会も極端に減った。たまに見る貨物列車も数両連結で通り過ぎて行く。しかしなぜだろう、貨物列車が通り過ぎると心がワクワクする。

WDFCの紹介を聞いた。ムンバイからデリーまでの約1,500kmを直結する貨物専用の高速鉄道である。国際港湾や生産地・消費地を直結し、インド経済の大動脈としての役割を担う。貨物車両はダブルスタック、すなわち2階建てで、連結長は1.5kmにも及ぶ。それが電化され100km/hの速度でインドの広大な大地を駆け抜ける。目の前を54秒で通り過ぎていく計算だ。さぞやインドの子供たちをワクワクさせる瞬間だろう。きっと、彼らの目にも焼き付きインドの象徴となるに違いない。

アーメダバードで見た貨物車両

Ahmedabad-Mumbai高速鉄道の必要性

Jay Wetwitoo(社会システム株式会社)

Ahmedabad-Mumbai地方において、より優れた大容量交通サービスが緊急に必要とされています。ここでは、2つの観点から議論したいと思います。

1.需要

下記の主要4都市の人口を考えて、北から南まで、

・Ahmedabad 700万

・Vadodara 200万

・Surat 600万

・Mumbai 2,200万人

この数字を見ると、Ahmedabad-Mumbai地方の人口は、東海道沿線の人口と比較的に近いと考えられます。また、インドの急速な都市化に伴い、2017年全国の人口増加率は1.1%となっており、このような急速な雇用増加により、交通需要が増加することが予想されます。

2.購買力

高速鉄道の需要を決定するインジケータの1つは、利用者の購買力です。Ahmedabad-Mumbai高速鉄道では補助金が予想されますが、高速鉄道での乗車は、航空輸送に匹敵する運賃がかかると考えられます。ただし、以下のGDP成長率データを考慮すると、

・2017年、6.6%、インド全国

・2014-2016年平均成長率、Surat 7.9%、Mumbai 6.9%

Ahmedabad-Mumbai地方の急速な経済成長に伴い、高速鉄道サービスの運賃を支払う余裕のある人が増えることが期待されています。これら2つの主な理由から、Ahmedabad-Mumbai地方における高速鉄道のニーズを十分に説明することができます。

Chhatrapati Shivaji Terminus駅構内

Delhiでの高層マンション

誰がために列車は行く

田中 皓介(東京理科大学)

インドで目にした高層ビル群は、先進国と比較しても遜色のないものであり、新幹線の建設はそんなインドのさらなる成長に寄与することは間違いない。そして、現地で働く日本人の苦労と貢献には頭が下がる思いであり、日本企業による徹底した安全対策はインドの多くの労働者を助けることとなろう。一方で、否が応でも目に付くのが、大都市のビル群のすぐ裏側にも広がるスラム街である。カーストの影響が垣間見えるその落差は、日本では想像もつかない。

そうしたインドの人件費は、日本の1/10~1/20とも伺った。数字で見れば安い労働力であるが、それは、我々は見学だけでも軽い熱中症になるような猛烈な暑さの中、現場で汗水を流す人々である。確かに貧しい人々に仕事を与えることは重要である。しかし、帰国後に調べたところ、インドの上位1%の人の所得が全体に占める割合は、1980年代の7%から2014年の22%に増加しているとのこと。

新幹線はインド経済の生産性を高めるだろうが、生み出された富はどこへいくのか。「土木・交通の研究者だから」と目を背けてはいけない問題を突きつけられた視察会であった。

スラム街の背後にそびえる近代的ビル

インドと鉄道

谷口 和善(鉄建建設株式会社)

私自身、建設業に39年携わってきた。その中で鉄道に関連した業務は27年あり鉄道に対する思いはことの外大きい。今回のインド鉄道プロジェクト視察会は、今後のことを考えると期待に胸膨らます視察であった。

インド鉄道・・・
高速鉄道建設予定地アーメダバード駅部での営業近接工事計画。鉄道工事経験者として期待に胸を高鳴らせる思いが湧いてきた。また、文化や気象条件・安全意識の違いのある中での鉄道建設をどのような形で進められていくのか。

メトロ(地下鉄)、インド国内それぞれに地域での延長距離と駅設備について私自身思いもしなかった完成度に驚かされた。特に最初に乗車したニューデリー駅での改札口の模様。日本とは違いボディーチェックがあり皆が整列し整然と入場していき、また混雑のすごさにも驚かされた。そしてメトロ建設のスピード感(標準統一断面でのシールド施工)。

最後に、日本標準とインド標準そして世界標準の相違。海外体験の殆どない私にとって島国日本の意識の違いを痛感させられた。

アーメダバード駅建設予定地(橋上通路には犬)

ニューデリー駅(完成度に驚き) 

Metro man

寺村 隆男(みずほ総合研究所株式会社)

インドのプロジェクトは時間もコストも計画通りいかないと思っていませんか?

驚くべきことに、Delhi Metroは1998年建設を開始し、2002年から開業。今や営業キロ373km(271駅)(東京メトロ+都営で304km)まだまだ拡張を続けるシステムですが

・計画より短期間

・予算を下回る支出

で計画を実行しています。かつ、

・上下分離ではないのに償却前でも利益を出す等収支も悪くない。

この成果は、“Strong Leadership”=Metro Man(スリーダラン博士)の貢献が大きいとのことです。旧弊に縛られない人材採用(=インド国鉄の人材の不採用)、都市交通にあった行政の確立、時間厳守等の職場規律の徹底などを行ったそうです。ご高齢ですが、時々出社されるようで、担当の方が”来週も来てくれる。“と目を輝かせていたのが印象的でした。

女性の方も快適に都市内移動ができるメトロは、Metro Manと誇りをもって事業を支える社員で成り立っています。JICAの融資等でこれに日本が協力できていることは誇らしいことですね。

メトロのマスコット(このマスコットにも意味があります)

インドでの視察を振り返り

日比野 直彦(政策研究大学院大学)

インドでの視察を振り返り、強く印象に残ったのは、摂氏40度を超える灼熱の暑さ、むせる程のカレーの辛さと並び、鳴り止まぬクラクションの音だった。都市内のいたるところで見られる大渋滞の中、バイクやオートリクシャーが自動車を縫って走っている。片方しかサイドミラーがない車も多く、自らの存在を知らせるためなのか、車線変更をするという意思表示をするためなのか、どの車も必要以上にクラクションを鳴らし続けている。そのけたたましい音が、何とも言えないアジアらしい混沌とした雰囲気を醸し出していた。特に、インドらしさを感じたのは、高速道路の路肩をクラクションを鳴らしながら逆送する光景であった。他方で鉄道駅は、案内放送もなく、もちろん音楽もかかっていない。聞こえてくるのは進入車輌の警笛と、スタッフの笛の音だけである。10年後にこの音はどうなっているのだろうか?日本のように駅員が駆け込み注意をマイクを使って大声で叫ぶようになってしまうのか、リクシャーが見られなくなり、クラクションの音が消えてしまうのか… 急速に進む開発を車窓から見ながら、そうなったら寂しいなぁと思っていた。

人づくりの重要性

福田 敦(日本大学)

今回の視察では、インドにおける鉄道計画の規模と整備のスピードに改めて驚かされましたが、最も印象に残ったのは、これらの仕事を支える人々の姿でした。異国の地でこれまでの経験を生かして、プロジェクトの推進に献身的に当たられている日本人のエンジニアの姿は、大変誇らしいものでした。同時に、デリーメトロの本社で会った多くの若いインド人のスタッフや、メトロの建設現場で働いていたインド人のエンジニアや労働者の活躍している姿も大変印象に残りました。鉄道の整備は、計画から、建設へ、そして運営・管理へと段階を経て進められます。インド高速鉄道も建設が始まれば施工管理に多くのエンジニアが必要になるでしょうし、運行が始まると運転、運行管理、点検保守のために多くのスタッフが必要になると思います。これらの人を、どのように育てて行くのかが、高速鉄道をはじめとする鉄道整備の最も重要な課題であるということを実感しました。

ムンバイメトロでの現場説明

活気あふれるインド

松友 登(西松建設株式会社)

初めてのインドでデリー、アーメダバードとムンバイに行き色々な意味で衝撃を受けた。ホテルから一歩外に出ると、強烈な色彩、匂い、クラクションの音、車道を逆走するバイク、自転車で鉄筋を運搬する人、児童労働、車道上の牛、そこら中に捨てられたゴミ等驚く光景を目の当たりにした。そして、日本に帰ってくると日本の普段の光景が、メガネのレンズが変わったように違って見え、インドの印象を聞かれると「暑くて大変だ」とか「毎日カレーで飽きた」とか答えるが不快なわけではなく、楽しそうに語っている。これがいわゆる「インド病」か。

さて、インドの建設業界はというと、ちょうど選挙が終わった後で、今後5年間で160兆円の公共投資を公約に掲げたモディ首相が再選となり、建設業界には盛り上がりムードが感じられる。大規模開発、さらにアーメダバード、ムンバイ地下鉄等日本のODAによる工事も進行中で、多くはローカルコントラクターのみで施工している。施工現場を見学し、彼らの話も聞く機会があったが実力があり、よほどの特殊技術を必要としない限り、外国業者の力を借りる必要はないといった感じだ。また、他のアジア諸国と異なり、中国業者のプレゼンスが低いというかほとんど見かけなかった。

とにかく彼らの活気とスピード感には本当に驚かされた。10年後いや5年後の街の様子を是非見たいものだ。

ムンバイ洗濯場から建設中の高層ビル群

ドアが開いたまま走る国鉄 

鉄道利用の安全とは?

三木 隆太(東武鉄道株式会社)

インド3都市の鉄道施設の視察を通じて、「鉄道を利用する時、誰でも安全に利用できるのか?」と率直に感じる事が多かった。振り返ってみると、扉が開いたままの走行する鉄道や、改札時にX線検査をする事業者等、安全に対する幅のある運営・サービスを体感ができたことでそのような気づきを得られたと思う。

インドでは、残念な事に鉄道の人身事故は相当数あり、実際ニュースにもならないという説明も現地であったが、乗車調査では、百聞は一見に如かずというシーンもあった。一方、ムンバイのモノレールでは、閑散としている時間帯にも関わらず警備員が厳格な対応をしているシーンも見られ、試行錯誤といった感じも受けた。

今回、今の日本では考えられないスピード感で鉄道プロジェクトが進み、近い将来、一層便利になり、人々の生活の中により身近になっていくインドの鉄道事情を実感したが、その過程に、鉄道利用の安全に対する認識や文化の醸成も進むことを個人的には期待する。

ムンバイ近郊鉄道 ウエスタンライン

ムンバイモノレール ホーム階 

交通施設内の案内表示から

水野 高信(日本工営株式会社)

デリーメトロの乗換結節駅での案内表示は、取付位置や文字の色と大きさなど実に明快だった。東京の駅や車両内で目にする、意味不明の表現、教科書的で長たらしい英語、色彩などのデザイン感覚の悪さ、やたらに多い注意書き、路線事業者ごとの違い、表示を目立たなくするほど派手で数多い広告などに閉口することが多い。海外の都市に比べて、この点で東京が国際都市かは疑わしく思えた。

サバルマティという小さな駅でのこと。ホームに待合室が男女別に表示されていた。女性専用車両のほかに、車両毎に一定数の専用座席もあるという。男尊女卑のインドかなと思って尋ねると、昔から女性は顔を他人に淫らに見せない風習があったからという。痴漢が多いのかと思って尋ねた自分を反省した次第。

アメダバード空港で搭乗待ちでのこと。ひとつ残っていた椅子に座ろうとしたら写真のように破れた表示が貼られていた。しばし見つめていたら、傍らの人がこれは老人用だから貴方は資格あるよと言う。ガックリして座りました。

駅構内の男女別待合室表示

空港の椅子背の表示 

インドの現場で働くエンジニア

柳沼 秀樹(東京理科大学)

「インドに高速鉄道ができるらしい」という話を聞いたのは3〜4年前であっただろうか。その後もTV・新聞の報道や鉄道会社の友人から社食でカレーを食べていると…など耳にする機会はあったが、私自身はどこかリアリティを感じられずに居た。

今回の視察で目の当たりにしたのは、両国間の思いを背負って日々ハードな仕事に従事する日本人エンジニアの姿であった。環境もやり方も違う異国で大プロジェクトを進めるその姿に心を打たれると同時に誇りを感じた。ところで、アーメダバードの現場説明をしている現地スタッフの1人が日本に留学していたKamlesh Varma氏(東大修士卒)であった。卒業生との突然の再会に驚くとともに、日本とインドをつなぐプロジェクトの現場に立って仕事をする姿は立派なエンジニアであった。

現場を支える両国のエンジニアのリアルな姿を目の当たりにし、エンジニアの端くれとして何かができるのかを模索したい。

Kamlesh Varma氏との再会 

デリー地下鉄工事とインド高速鉄道

山崎 晶(株式会社熊谷組)

視察したデリー地下鉄、駅や車内が大変混雑しているのに驚いた。空港とニューデリー市内間は道路では1時間以上かかるが、地下鉄は19分、地下鉄が人々の生活に無くてはならないものになっている事を実感した。駅の壁面に大きな施工の絵が掛かり、地下鉄公社の職員も日本からの財政・技術の支援に心から感謝していたのも印象的だった。

実は、弊社熊谷組、デリー地下鉄1期工事の施工を担当し、設計・施工中や竣工後も非常に苦労したのだが、工事を担当してよかったと今回しみじみ感じた。インド高速鉄道、様々な課題があるかもしれないが、完成の暁にはデリー地下鉄同様に、人々が日々利用し大変愛される必要不可欠なインフラになるだろう。世のため人のために働くことは土木の大義であり、一人のエンジニアとしてインド高速鉄道を応援すべきと強く感じた。

デリーメトロ公社1Fの展示

インド駅前開発のこれから

山田 修平(三井不動産株式会社)

車・二輪・オートリキシャ・牛馬、その流れに交錯する人々…混沌たるインドは急激な都市高速鉄道に牽引され都市構造が変貌していく。日本の戦前から現在までの都市変遷の過程を一足飛びに駆け抜ける鉄道整備のスピード感に対し、近代化の進む地区もあるものの、まちの多くは取り残されていた。駅前に広がるスラム街の遥か先に高層ビル。政策的課題が山積し、面的開発の環境醸成はとても一筋縄にはいかない状況に思えた。土地の権利や収用の理想と現実の乖離が大きい。

都市高速鉄道が日常生活に深く浸透していくことで、いつの日にか駅周辺の在り方に重要な契機が訪れる。駅はまちの顔、そこに多様な表情を添えられる力が駅前開発にはある。日本の鉄道技術とインドのIoT技術の強みを活かした日印融合の駅前開発に期待したい。“遅々として進むインド”は1日にして成らず、悠久の時の流れを感じずにはいられない。有意義な視察会を企画頂き関係者各位に感謝致します。

ムンバイメトロ 高架駅周辺のまちなみ

ムンバイモノレール 駅から周囲を望む