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インタビュー

ふたば未来学園──福島から内発する教育を通じた復興 1

双葉郡教育復興ビジョンの実現に向け、地域の未来を担う人材を中高一貫教育で育成する

双葉郡教育復興ビジョンの実現に向け、地域の未来を担う人材を中高一貫教育で育成する

福島県で唯一のスーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定され、課題解決型学習「未来創造探究」を通じて実社会の課題に挑戦するなど、特色ある教育活動を展開するふたば未来学園。地域の復興まちづくりを通じて世界の課題解決に取り組む人材の育成を目指す試みについて、柳沼校長と南郷副校長にお話を伺いました。

全校休校中の双葉郡内5つの県立高校再開に向けて新校を設立

──こちらは平成27年(2015年)に高校を創設されたということですが、学校ができるまでの経緯をお伺いできますか。

柳沼 もともと双葉郡には5つの高校がありましたが、東日本大震災により全校が避難を余儀なくされ、現在も休校中であるという背景があります。それをうけて、双葉郡の首長、教育長、県の教育委員会、国などが協働し、「これら5校の学びも受け継ぎながら、双葉郡の高等学校教育をどのように継続していくか」を取りまとめたものが双葉郡教育復興ビジョンです。この地においてどんな子どもたちを育んでいきたいか、将来どういう大人になっていってほしいかの観点から生徒を育んでいく拠点として、中高一貫教育の新たな学校の創設が提言されており、それが実現したものが当校になります。

校舎外観
校舎外観

──南郷副校長は文部科学省から出向されていますが、新たな学校創設に向けて、地元の方々とどのように協働されたのですか。

南郷 学校創設にあたっては、平成24年(2012年)にビジョンがまだ全くない段階から、まずは何が必要なのかを地元の双葉郡の8町村の方々、県、国、大学を交えて皆で考える場をつくりましょうという最初の働きかけを行い、ビジョン策定後は、開校に向けた調整を続けました。学校が地域にないということは、地域の未来が不確かであるということと同義なので、一刻も早い開校、そして中高一貫同時開校を求められていましたが、5校全校が休校中である高校を再開することが最優先であったため、先に高校を立ち上げることになった次第です。平成25年の12月に知事の開校宣言があり、その1年4カ月後に開校していますが、通常、開校まで3年から5年かかるところが1年程度でできたことは極めてスピーディーだったと思います。

柳沼英樹 ふたば未来学園中学校・高等学校 校長
柳沼英樹 ふたば未来学園中学校・高等学校 校長
南郷市兵 ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長
南郷市兵 ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長

──双葉郡の8町村の中で、学校の建設地が広野となったのはなぜですか。

柳沼 広野町は双葉郡の中で最も早く全町が戻ることができた場所です。また、校舎の建設にはそれなりの広さの敷地が要りますが、この場所はもともと山で、防潮堤に使う土を削り出す計画がありました。その跡地を利用して、敷地面積5.7haの新校舎が2019年に完成しました。それまでは広野中学校の校舎をお借りして授業を行っていたんです。新校舎の供用と同時に中学校も開校しました。

ボランティアの大学生も授業をサポート
ボランティアの大学生も授業をサポート

──通学する生徒たちは広野町の出身者が多いのですか?

南郷 高校の一期生の約8割が双葉郡の出身で、広野町出身者は14%でした。ほとんどが県内外での避難を経験していて、「自分たちが復興の役に立ちたい」という明確な意図を持っています。まだ家族が郡内に帰還していなくても寮で生活して通学している生徒もいます。当所、募集定員を120人としていましたが、入学志望者が多かったため160人が入学することになり、以来、一学年はこの人数としています。

(左から)茶木環 広報委員長、酒井由紀子 広報委員、柳沼英樹 校長、南郷市兵 副校長
(左から)茶木環 広報委員長、酒井由紀子 広報委員、柳沼英樹 校長、南郷市兵 副校長

「変革者」に必要な主体性、協働性、創造性を育む

──建学の精神が「変革者たれ」はどのように決められたのでしょうか。

柳沼 学校のコンセプトを作るにあたっては、いろんな意見をいただきながら、また話し合いも持ちながら固めていきました。これからの社会に必要とされる人材ってどういう人材だろうということを考えたときに、これまでつらい経験もいっぱいしてきた子どもたちが、自分を変えていくだけじゃなくて、自分が育った、あるいは育ってないけど自分が落ち着く地域も変革していく。もっと極端に言うと世界も変えていく。そういう人材を育んでいくことが、この地に誕生する学校だからこそ求められることだということで、自らを、地域を、そして社会を変革していく人間として「変革者たれ」を建学の精神としています。

生徒がつくるスイーツを校内カフェで販売
(左から)生徒がつくるスイーツを校内カフェで販売

──学園では、「挑戦する積極性」や「他者を感じて認める力を育てる」という教育方針のもと、具体的にはどのような形で取り組まれているのでしょうか。

柳沼 本校の校訓は、「自律・協働・創造」と三つあります。最初の「自律」というのは、どんな困難に直面しても、めげない、立ち上がって挑戦していくという主体性です。「協働」というのは、自分だけで取り組むのではなく、いろいろな人と考え方の違いを乗り越え、協力して取り組んでいくことです。その中で他者を認め合うということも当然必要になってきます。最後の「創造」は、今後の不透明な社会にあって新しい生き方や新しい社会を創造していく力をつけて、学びの中から、自律的な学び、協働的な学びを展開して、創造力もアップできたらということで取り組んでいます。
 例えば、高校1年生の課題探究の中では、グループに分かれて自分たちのテーマに基づいて演劇をつくります。自分はこういうものをつくりたい、演じたいということでは主体性が必要ですし、他者の考え方を受け入れていきながら、まとめていったものを発表する。演劇からの学びを通して、子どもたちの主体性や協働性や創造性というのを育んでいけるということです。

地域協働スペースで談笑する生徒たち
地域協働スペースで談笑する生徒たち

ルーブリックにより人材育成要件を明確化

南郷 本校の育てたい力というものをルーブリックという表にまとめています。数値化しづらいけれども、双葉郡あるいは世界の課題解決に必要な力を、教員皆で話し合い、整理したものです。この力が育ったらいいなというより、絶対これが必要だとわれわれは思っています。Dの「表現」「発信力」の軸では、レベルが5に高まっていくと、論理的な発信だけではなく、情緒的な発信ができるようになることを示しています。例えば、放射線について数字を用いて論理的に説明できても、納得してもらえることは少ないですが、今の状況だったり人々の思いだったりとかを物語って心を動かしていく、ストーリーをもって伝えて腑に落ちるかたちで説得できるとか、そういうことを我々は求めているわけですね。ですので、こういう「表現」「発信力」を育てるという意味では、先ほどの海外研修でも、どうやって心を動かすかということを生徒たちに問います。一人ひとり、自分の震災体験みたいな原点を出発点として、「こういう課題意識を持って、いま自分はこういう課題解決のプロジェクトに取り組んでいる、その中から実現可能な社会の実現のためにはこれが必要だと思っているんだ」というような、主語を自分自身として語れるようになることを求めていきます。また、Hの「寛容さ」では、レベルの4ぐらいだと考えの違う他者を受け入れられるのに対し、レベルの5はさらに達観していて、自分と異なる異質の者がいるからこそ、世の中はよくなるのだという、そういう捉え方をしてほしいということを考えています。

人材育成要件・ルーブリック
人材育成要件・ルーブリック

*この記事は、「ふたば未来学園──福島から内発する教育を通じた復興 2 課題先進地域である復興の地から世界の課題解決を目指す」に続きます。