活動レポート

春の見学会

2022年度見学会 復興道路で辿る東北震災復興とまちづくり 報告

 今年の見学会は、昨年12月に全線開通した復興道路(三陸沿岸道路)を仙台から八戸まで北上し、災害復興のあり方を考えることを目的に開催しました。参加者は24名でした。
 仙台駅から名取市のかわまちてらす閖上へ。河口付近の堤防と一体となった土地の上に作られた復興のシンボル的な商業施設です。にぎわいを引き込む空間として住民、官、学が協働で整備されたとのことです。
 三陸道を北上し、南三陸町旧防災対策庁舎、南三陸さんさん商店街へ。説明を受けている中、チリ地震津波(1960年5月24日)の教訓を伝える防災無線が流れました。参加者一同、黙とうし、様々な教訓を伝承していくことの重要性に思いを巡らせました。
 気仙沼市のBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)南気仙沼駅へ。BRTの概要、利用状況などの説明を受け、実際に気仙沼駅まで乗車しました。都市間の基幹交通としての役割は、三陸道を利用する高速バスに移行しつつあるとのこと。一方、病院への迂回ルートを設定できる柔軟性や多頻度化により利便性が向上しているとのことです。
 次に、三陸道の気仙沼湾横断橋へ。震災後の計画段階において地域の声を聞きルート設定を行い、橋の上に避難できるよう階段を設置しているとのこと。斜張橋の支間長は東北最大で、スケールだけではなく地域に根差した復興のシンボル的な存在といえます。
 陸前高田道の駅・復興祈念公園へ。かつての名勝地は、防潮堤の周囲に植樹された松とともに復興に向かっています。嵩上げされた市街地に流れる川原川は散策できる空間として象徴的な風景を形成していました。嵩上げされていない低地部分が今後の課題とのことです。
 第2日目は大槌町へ。この地域では商・工業施設の再建スピードが遅いことが課題であるとのこと。図書館や集会場を一つにした文化交流センターが建設され、住民によるまちづくりに向けた検討組織とともに取り組んでいるとのことです。
 宮古市の三陸鉄道株式会社へ。高校生や免許を持たない方の足としての役割と観光による地域振興の2つの役割を担っている一方、利用客数は右肩下がりの厳しい状況とのこと。三陸道の開通の影響はあまり受けないと想定しているそうで、むしろ三陸道で大都市圏からの観光客を呼び込みやすくなるので、鉄道という観光資源を活かしていきたいとのことです。
 宮古市田老の津波遺構・たろう観光ホテルへ。語り部のボランティアから震災当時の様子を伺いました。防潮堤というインフラを作るだけでなく、避難を促すために何をすべきなのか、田老で伝承していることを伺えました。
 普代村にある普代水門へ。津波による浸水を食い止め、村内の人的被害を最小限に抑えた水門です。施設だけで安全を確保できないことを伝承していくため、絵本を作成して子供に伝えているそうです。
 これまで三陸をバスで回る場合は、3日間は要したとのこと。三陸道が復興を交流促進の面から下支えできる一方、未だに残る多くの地域の課題に対して、三陸道がなす交通がどのように連携していくべきかを考えさせられる視察でした。

日本大学准教授 石坂哲宏(幹事会幹事)

昨年全線開通した三陸沿岸道路
昨年全線開通した三陸沿岸道路
気仙沼湾横断橋
気仙沼湾横断橋
南三陸町旧防災対策庁舎
南三陸町旧防災対策庁舎
普代村普代水門
普代村普代水門